まえがみをきろう

ただのOLのただの備忘録

この道はいつかきた地獄 〜舞台『文豪とアルケミスト 綴リ人ノ輪唱』感想

 

 

端的に言うと、「コロナ禍のエンタメ自粛に物申す系作品の是非」とかそういう話です。

 

 

文劇1,2は配信で視聴、アニメは途中まで、原作アプリは未履修という文アルど素人の感想です。

元ネタの文豪についても軽くググった程度の知識しかありませんがご容赦ください。

 

もくじ

 

 

鋭い刃物のような、それでいて重たい鈍器のような、とにかく観劇後の心に深い傷を負う舞台でした。(良い意味99.9%、悪い意味0.1%)

やべえもん見ちゃったな…というのが劇場を出て一番に浮かんだ感想です。

 

事前情報としてプロパガンダがテーマと聞いたので、こういうなんとも言えんようなテーマが好物の私は、嬉々としてチケットを取りました。

(モリミュ漬けな8月を過ごしていたこともあり、このキャストなら!というのが背中を押したので)

今思えばこれが地獄の始まりだったわけですが……。

 

 

地獄と表現する所以は2つあります。

1つ目は、「“プロパガンダ”をテーマにしてしまったこと」、そして2つ目は、「これが2.5次元作品であるということ」。

以下、その理由を書いていきたいと思います。

 

①“プロパガンダ”をテーマにしてしまったこと

プロパガンダ【propaganda】 宣伝。特に、ある政治的意図のもとに主義や思想を強調する宣伝。

 

これは良い地獄というか、意味のある地獄だと思っています。では何故“してしまった”と表現するのか?

それは、時勢やエンターテイメントの在り方にあります。

 

今回の文劇の最大の命題は「全体と個」です。「国家と一個人」です。ひいては、「統制するものとされるもの」とも言えるでしょうか。

物語の本筋として描かれるのは「全体に抗う個」ですが、今回本当に伝えたいことは「でかい権力に負けた後、絶望に射す一筋の光」なんじゃないかと思っています。

 

2020年9月というこの時期にあえてこの命題を取り上げたということに、制作陣の強い意志を感じ、その意図がダイレクトすぎるほどに伝わってきました。そして私は個人としてそれに共感しました。

これが“意味のある地獄”と表した理由。

そして「あえてこの時期にこのテーマを扱う」ことへのチャレンジが、受け手によっては良くも悪くも転ぶだろうなと思っていて。

これが“してしまった”と表した理由です。

 

今回、北原白秋佐藤永典さん)が初登場します。芥川龍之介(久保田秀敏さん)からは憧れの眼差しを浴び、弟子には萩原朔太郎三津谷亮さん)・室生犀星(椎名鯛造さん)という可愛らしい二魂がいて(弟子は取らない主義らしいですが…)。

そんな好感度カンストな白秋先生ですが、劇が進むにつれて仄暗い一面も垣間見えてきます。それが生前、自身の作品が「プロパガンダ」利用されていたという事実です。

確かに、作品リストを眺めているだけでも馴染みある『あめふり』や『この道』に紛れてかなり不穏な曲名も…。

 

文豪達が生きた時代は、言うまでもなく戦争の時代。国家という「全体」が、文化を飲み込み、利用し、人々を扇動させていった歴史があります。

劇中では流石に不穏な言葉や直接的な表現は避けられているようでしたが、それでも演出の各所に「その時代」を表す何かが散らばっていて感じとる度に鳥肌が立ちました。

館長(吉田メタルさん)の諸々の発言だったり、没年の懸垂幕とかですね。一番ブワッとしたのが、アンサンブルさんの歩き方でした。太宰くんが倒されたあと、急に軍隊の行進みたくなるシーンがあるんですよ。いやこっわ。怖って言っちゃいそうになってました。

 

話を戻しますが、作中では館長こそ「全体(国家)」の象徴であり、それぞれの文豪が「個」として描かれるという設計になっていました。

「個」である作品を守ろうと「全体」に抗う文豪たちを館長がどんどん制圧して行くのですが、結論から言うと全滅エンドです。

 

終盤、バッタバッタと次々に斃れていくんですよ。どんなに強い「個」であっても結局はでかい権力には敵わないんだな…と思うと同時に、この感じ、今年の春にイヤというほど味わったな?と。

 

「もしお望みならこの世の全ての文化芸術を消し去ればいい

小説も絵画も音楽も詩集も短歌も全部消し去ってみたまえ

その後この世界に何が残るのか、すなわち人の心に何が残るのか

その本質がわかるのか」

 

白秋先生のこのセリフに、全てが詰まっていると思っています。

 

舞台では館長の下に全員が斃れますが、最後は転生から目覚めて、太宰治平野良さん)と芥川龍之介が出会うシーンで幕を閉じます。

私はここに、「絶望に射す一筋の光」を感じました。

このシーン、真正面から受け取ると文劇1の冒頭シーンへ繋がるんだと思うのですが、いや、『君の名は。』か?階段で再会する瀧くんと三葉か…?

 

エンターテイメントが次々と無くなっていった現実世界で、やっと再開の兆しが見えてきたこの夏、演劇業界にまさにこの「一筋の光」が射した季節になったと思います。

 

 

だからこそ、劇中の文豪たちのセリフが滲みる。

 

前述した白秋先生のセリフももちろんですが、芥川先生と太宰くんのやりとりの中で、芥川先生の大好きなセリフがあります。

 

「それらの作品は、僕の血となり、栄養となっている」

「君の中には僕の作品が流れている。そうやって繋がっているんだよ」

 

全ての芸術や文化を愛する人にぜったい共感してもらえる。

この文劇もこうやって見た人たちの血肉になっていくんだなあと思います。

 

 

 

2020年、多くの演劇が日の目を見ずになくなっていきました。

色々な制限の中やっと再開できたこの時期だからこそ、この内容の作品を上演することは、演劇の復活と更なる発展を目指していく意志表明なのかなとも感じました。

だからこそ、

これだけのメッセージ性を持った今回の文劇だからこそ、伝え方は最善だったのか?という疑問も湧くわけで。

 

それが2つ目の地獄です。

 

 

②これが2.5次元作品であるということ

 

最初に書いた「良い意味99.9%、悪い意味0.1%」の0.1%の方です。

 

結論から言うと、「この文劇3自体もプロパガンダとして利用していると言えるのでは?」ということを感じて少しもやっとした話です。

 

プロパガンダ」を一言で表すならば「特定の主義・思想についての宣伝」です。

劇中の白秋先生も自分の作品の政治的利用について触れ、望ましくないものとして扱っていました。

 

館長との戦いで敗れたあと転生という形の光を見せたことも、結局のところ、

「個」は「国家」には逆らえない、しかし希望を持って抗い続けないといけない

「国家」は悪で、それに抗う「個」は正義である

些か断定的に書いてしまいましたが、ようはこういうメッセージを伝えたいんだと私は感じました。

 

プロパガンダ批判をする作品が、そのメッセージ性が強すぎるあまりプロパガンダになっているという構造ができるわけです。

 

強いメッセージ性のある作品は好きです。しかし、原作という大きな母体のある2.5次元ジャンルで、このような強すぎるメッセージを乗せることは、果たしていいのだろうか?

新進気鋭の劇団が小劇場で上演するのと、原作やスポンサーが絡む2.5次元で上演するのとではどうしても違ってきます。

 

こうして上演できているので原作まわりは問題なかったんだろうと思いますが、見ている方の中でもやっとする方はいるんじゃないかなあとは思うわけで…。

 

でもまあ、誰に好かれ嫌われようが、どう思われようが、作品は「個」であり唯一無二の存在というのは文劇3が教えてくれたことなので、今回はこの形で大正解なんだろうと私は思います。

 

ひとつの作品でこれだけ考えさせられるというのも久しぶりに味わう感覚なので、とても気持ちがいい、そういう意味でも見に行ってよかったと思える作品です。

 

 

 

◆感想

 

ここまで構造的な話ばかりだったので、純粋にお芝居の感想を。

 

・キャラクター、キャストについて

平野良さんは相変わらずぶっ飛ばしてるな〜!!

映像で文劇1を見ていてそのヤバさはわかっていたはずですが、生で見ると想像を超えるぶっ飛び方でした。

芥川先生の前だと急に電波になるの、なに?

太宰治と書いて太宰治とか意味わからないですもんね。

 

二魂のかわいさはプライスレスですね。この2人アニメ5話で見て、いやめっちゃかわいいやん…と思っていたら舞台でもめちゃくちゃかわいかった、優勝です。

 

あと私なんだかんだで中原中也深澤大河さん)が大好きなんでよね。何かと太宰くんに突っかかりながらもやっぱりいい人なんだよなあ。飲んだくれなところも親近感が湧く。

 

・ストーリー、演出について

 

今回の副題、『綴リ人ノ輪唱(カノン)』

この輪唱(追いかける、繰り返すと解釈)発展させて輪廻転生というのが今作のキーポイントでした。

 

このポイントがゲームや時勢との親和性がとても高かったので、こんなに心に残る作品になったんだなあと思います。

 

いったいこの太宰くんたちは何周目なんだろう?

 

あと、個人的にゾッとした演出が、終盤の白秋先生と太宰くんの朗読です。これマイク切ってやってたよね?

生の声での訴えが、ダイレクトに伝わってきて心が震えました。

この朗読劇っぽい演出、文劇ではちょこちょこ見受けられますが、今回は特に効果的に使われていたなと思います。

なんか、自粛期間中に配信の朗読劇が増えたことへの意趣返しなのかな、とも感じたので。

 

 

 

ともあれ、

 

文劇3、今この時に見るべき作品だったなと思います。

2020年を象徴するような演劇。

 

全公演無事に終えられますように、ささやかながら応援しています。

 

bunal-butai.com

 

この道はいつかきた道

ああ そうだよ

あかしやの花が咲いてる

 

この道 / 北原白秋