まえがみをきろう

ただのOLのただの備忘録

モリアーティの救済と生きるということ〜ミュージカル『憂国のモリアーティ 』Op.5-最後の事件-感想

 

※初日を観劇した興奮と勢いで書いています。大いにネタバレを含みます。

※全て記憶なので間違ってる部分があったらすみません。

※後日、複数回見ての感想とキャスト別の感想を追記予定。

 

 

目次

 

総評

最初から最後までクライマックスだぜ!!!

でした。でも、3時間ずっと息を張り詰めているというわけでもなく、程よく緩急があり、各キャラにスポットが当たったソロがあり、原作補完もし、笑わせるところは笑わせ、最後は怒涛の畳みかけで泣かせにかかるという。

原作自体は2巻分で3時間の公演時間だったので、間延びの心配も少しはあったものの、それを全く感じさせない内容でしたし、プロローグにこれまでのあらすじを持ってくることで、今回から見る方にも優しい構成だったかと思います。

 

何より、4年間の月日を重ね、危うい世界情勢も乗り越えてきたカンパニーからの最大限のファンサービス公演だったんじゃないかと思います。(「集大成」というと終わりみたいで悲しくなるので、あえてファンサービスと書きます)

 

脚本演出の西森さんは公演ごとにテーマを決めているそうですが*1、(Op.1は「オーディション」、Op.2は「光と闇」など)、今回、私が勝手につけるとするなら「救済と生」だなと思います(勝手に言ってるだけなので、後日メージュあたりで正解がでたらこっそり消します……)

ウィリアムの救済、シャーロックの救済、大英帝国の救済……。登場人物みんなが救われて未来を向く話、変わり行く未来を生きる話なのかな、と思いました。

 

プロローグ

開幕即ウィリアム(鈴木勝吾)のアカペラから始まります。しかもOp.2のウィリアムのソロ「この世界を」から。個人的には(特別耳がいいわけでもないので推しの欲目だと思いつつ)、初日から伸びやかな声で、1000人超えキャパのメルパルクホールに綺麗に朗々と響き渡り、とても誇らしかったです。

 

その後は、Op.1~4までのストーリーを、当時の曲をリプライズしながらメドレーのようになぞっていきます。過去の名曲たちを久しぶりに聞けた喜びや懐かしさに加えて、当時よりも明らかにうまくなっている様子も見えて、この時点でわくわくが止まりませんでした。

 

その中でもOp.1と2でM1だった大英帝国」が客席演出付きでもう一度聞けたのが、最高によかったです。Op.2コロナ禍真っ最中で全く客席演出ができなかったので、Op.1ぶりつまり4年ぶりに体感する客席全体から湧き上がる市民の苦しい叫び声。モリミュの主役は一貫してこの市民たちなんだと(主演はもちろんウィリアムとシャーロックですが)、改めて実感しました。初日はありがたいことに下手側の通路席で、真横を色んな方々が通って行ったのですが、やっぱり「大英帝国」の演出は圧巻でした。

 

また、「犯人は二人」の回想シーンでは、ミルヴァートンも出演しさらにトルネードもしっかりキメていたのが最高に面白かったです。いやあの回り方はちょっとチョケ入ってただろ。

アンサンブルどなたがミルヴァートン役やっていたか明日以降注目しようと思います(一瞬蓮井さんに見えて、Op.3でビル役をやっていた彼がミルヴァートン役でウィリアム、シャーロック(平野良)と三竦みやってるの超えもい!!と思いましたが真偽不明。わかる方いたら教えてください)

 

その後、ミルヴァートンを撃ったシャーロックの震えというか動揺が、Op.4の千秋楽以上に見えて、この半年間でさらにシャーロックとしての熟成が深まった(?)ような気がしました。

 

そしてメインテーマでプロローグ部分は終わり。曲終わりの締め、ウィリアムとシャーロックが向かい合って同時に下に拳を下げるのが超絶かっこよかったです。これまでウィリアムひとりが指揮者のように締めることが多かったですが、今回は二人一緒ににというのが、後々キーワードになる「同じ地平に立つ」ことの暗示のような気がして、ここもえも!!になりました。

 

一幕

そして「最後の事件」へと進むわけですが、前回のラストで逮捕されたシャーロックが、自暴自棄に取り調べを受けるシーンから始まります。ここで好きなのは、ジョン(鎌苅健太)のちゃぶ台(?)返し。友情をぶつけるシーン。

前回あんなに爽やかないい曲で「これが友情ってやつなんだな」と確認しあったのに、さっそくすれ違っていて切ないのですが、これもシャーロックがウィリアムを救う大きな一歩だと考えると、感慨深いです。

 

一方モリアーティ陣営では、計画の変更を告げられたファミリーの個々の葛藤が垣間見れます。前回に引き続き、アルバート(久保田秀敏)・モラン(井澤勇貴*2)の大人組とルイス(山本一慶)・フレッド(長江崚行)の年少組の対比が、見ていて不安を煽ってきます。今回はそこにボンド(大湖せしる)のある意味一歩引いて事態を見守ることのできるキャラクターがいて、それが少し救いでもありました。

 

モリアーティ陣営で特筆したいのは、ルイスの歌声。Op.3でもその片鱗を感じ、キャストも言っていましたが、ルイスの歌声からウィリアムとの血の繋がりを感じます。今回はOp.3より特に。モリアーティ陣営で歌っているときの声の通り方が、ウィリアムにさらに似てきたな、という印象です。

 

さらに一幕よかったのがフレッド。原作でも特に印象的な、ウィリアムの「僕はもう死にたいんだよ」のシーン。このセリフに至るまでにフレッドがいかに場を作るかが重要だと思いますが、前回に引き続き激情のフレッドが見れて、そして「僕はもう…」のシーンにも、その後の裏切りのシーンにも自然に繋がるのがよかったです。

 

この「僕はもう死にたいんだよ」のウィリアムの笑顔。すべてを諦めた表情で見ていてとても辛いものがありました。(結局タバコはポイ捨てのままだったのか気になる)

 

フレッドの裏切りがルイスにばれるシーン、ここもフレッド・ルイス双方とても感情の高ぶりが見ていてすごく心に刺さりました。ルイス、せっかくだから薔薇握りつぶしてほしかったな……(無理です)

 

話は反れますがこの辺りも含めモリアーティ陣営の机椅子等の出捌け、フレッドもやってはいたのですが、何気にジャック(の扮装をしたアンサンブルさん)が登場していて、細部の丁寧さにびっくりしました。今回はおそらく尺だったりの都合上出ていないジャック先生ですが、表にはでなくてもそこに”いる”ように感じられて、とてもよかったです。

もしかして、私が見逃しているだけで最初のシャーロックの取り調べシーンでパターソンの波動も感じられたりしたんだろうか……次回以降要確認。

 

さて話は戻り、ルイス・フレッドの裏切りをモラン・ボンドに報告に行くシーン。ここの井澤さんが原作のモラン大佐よりもかなり優しいような印象を受けました。もともと井澤さんの声が甘めというのもあるのですが、弟分たちを温かく見守る姿が厳しさを隠しきれていなくて、井澤モランならではの少し温かみもあるようなシーンになっていたと思います。

 

てか、例の懐中時計をここで出すなら空き家の冒険編もやってくれませんか??!?!?いや今回ちょいちょい懐中時計匂わせすぎてませんか??!?そのくせ2幕のラストではあえてモランのその後について言及しなくてフラグを立てずに終わったの、なんなんだ、もう……。

 

ところで、マイクロフト(根本正勝)とアルバートが二人で語らうシーンって原作にないですよね…?でもこの追加要素、かなりよかったなと思いました。

マイクロフトがきっぱりと「死は逃げだ。共に償っていこう」って言ってたと思うんですが(やばい一部幻聴かも)、アルバートの幽閉までの決心への理解がこのシーンでさらに深まったような気がしました。

 

一方のホームズ陣営、このずっと重い空気の中でもレストレード(髙木俊)の明るいソロ曲や笑える日替わりネタを自然に入れられてすごいなと。ソロ曲なんか、段上に赤い旗を振ったウィギンズ(ちょこっとだけでも見れてよかった。*3なんてったって14巻の表紙は彼だもん)が出てきて、これはレミゼか?ウィギンズはガブローシュか?となりました(そんなパロディある?)

ハドソンさん(七木奏音)のソロ曲はお尻で市民を押し倒しちゃうし、めちゃくちゃかわいい。この2人にかなり空気を助けてもらいました。

 

シャーロックに関しては、初演の「緋色の研究」がいちばん好きな曲なので、このリプライズが聞けてすごくよかったです。ウィリアムと同じ地平に立った曲、シャーロックのシーンで赤い照明なのが珍しいなと思って印象的でした。

 

そして一幕ラストは全員が出てきて手を伸ばして終わるわけですが、これが直接は向いていなくても、みんながシャーロックに救いの手を求めているようで、二幕の展開を暗示させてとてもいいなと思いました。

 

てか初日見た方に確認したいんですが、勝吾くん、だいぶ序盤で泣いてましたよね?私が気づいたのは、兄様の女王謁見の裏での貴族殺しの最中に涙の跡がついているのを見たときだったんですが。これいつ泣いていたかわかる方教えてください…!

 

二幕


一言でいうと、シャーロックがずっとスーパーヒーローでした。なんかもう、常に後光がさしている感じがした。ジョンに素直に謝るときも、女王謁見の最中も。というかこのシーンのポニテ位置がやたら高くてかわいかったですね。正装だとそうなるの?好き。

 

そして、「あいつは大事なダチなんだ。救ってやりたい」の一言で胸がぎゅっとなりました。過去作からずっと続くシャーロックとジョンの友情を、ウィリアムに繋げると明言したシーン、シャーロックが男前すぎませんか?良くんの少しぶっきらぼうな言い方も、シャーロックらしさが出ていてとてもいい。

 

その後、ルイスとフレッドの内通シーンでも、光属性の圧倒的主人公感で2人を説得していて、なんかもう真の友情を理解したシャーロックには向かうところ敵なし、といった感じ。(そういえばこの内通シーンは馬車ではなくて廃教会に変わってましたね、なぜだろう、考えよう)

 

ウィリアムが221Bを訪ねるシーンでは、原作(そして聖典)通り、”モリアーティ教授”の姿で。この1シーンのためだけに衣装を作ったのかと思うともったいない(?)ような気もしますが、原作でもかなり印象的で重要な姿なので、細部まで拘ってくれてうれしいかぎりです。

 

例の封筒を2通渡し去っていきましたが、その後の貧民街のシーンで、原作と違う小ネタが挟まれていたのが西森さんらしくて好きでした。エドガー・アラン・ポー『黒猫』になぞらえて、煉瓦の壁の中に犯罪の計画書を隠すというもの。(これ最初、「江戸川乱歩」に聞こえてしまって、別作品が一瞬よぎっちゃいました。せんせー!)てかホームズがいる世界線にもポーって存在するんだ。

このシーン、BGMがOp.3の輪舞(でしたよね?)なの大天才すぎませんか?

Op.3の感想ブログにも書いたんですが、犯罪って2人にとっては交換ノートのようなものじゃないですか。その答え合わせのBGMに、犯罪を通して2人で踊った音楽がめぐってるの、すごくえもい。まず第一にここで泣きました。これ以降はことあるごとに泣いてます。

 

そしてそしてそしてなんといってもその後の手紙のシーン。原作でも随一に好きなエピソード。ここのウィリアムの歌声が優しすぎたんですよね。それまでずっと張りつめていた声が、Op.5では初めて緊張の糸が解けたような。Op.3の「こころを抱いて」以来、いやそれ以上に優しい、心許した親友に向けるような歌声で、第二にここで泣きました。その後走り出したシャーロックはもう紛れもない光の主人公

 

場面は変わって、貴族と庶民が手を取り合うシーン。モリアーティプランの効果を見せる大切なシーンですが、原作からの追加要素として、大人の貴族と市民だけではなく、子ども同士の交流を追加したのが良かったなと思いました。大人たちだってもちろんそうですが、未来を作っていくのは何よりも子どもたちだから

 

さて、橋落ちの話をします。準備はいいですか。

まずタワーブリッジでの戦い。仕込み杖のウィリアムVSバリツの達人であるとはいえ丸腰のシャーロック。よく考えたら結構な実力差があってもおかしくないのに、よく対等に戦えていたな、と。(それだけウィリアムは計画遂行で弱りきっていたのかな、とも……)

そして原作では背面から倒れるように飛び降りるのに対して、今回は前から飛び降りるという。より死に向かっているようで、より辛く感じました(これは演出上の都合が大きそうですが)。

飛び降りた後は暗転をうまく使いながら、手首を掴む→そして橋落ち。空中でのシーンは、背景を逆さに映して表現をしていました。

さて、問題なのはこの空中でのシーンです。落ちるウィリアムをシャーロックが優しくキャッチ(SQ公式)し、「生きよう」というのは有名な話ですが(?)、ウィリアムの方からシャーロックの背中に腕を回すなんて、そんな描写原作にありましたっけ?!!?ないですよね??!?何してくれてるんですか??!?!?!?(歓喜)そしてここで第三に泣きました。

なんか歌ってた気がするけど動作が衝撃過ぎて何も思い出せないので何回か見たらまた追記します!たぶん結構な歌詞だった気がする!!

そして川に落ちる瞬間しっかりウィリアムの頭を抱えるシャーロック……

この一連の流れ、いや空中に何秒間いるんだよ、というツッコミは無粋なのでやめておきます。

 

話は戻り、橋落ち後のアンサンブルの市民はそれはもう希望に満ちた歌声で犯罪卿の死を喜び(ラララ~♪とまで歌っちゃって)、対してプリンシパルは各々決意を決めた顔で一点を見つめる対比がもう……。アンサンブルが異様なように見える、これってよく西森さんがよく言う異化効果なのかも、と少し思いました(違ってたらごめんなさい)

 

さて、ラストシーンは、原作通りルイスがMとなり(髪を耳にかけるのかっこよかったね)、対してテムズ川に落ちた2人は、ニューヨークのベンチで横並びで座っているという。ここの2人はずっと後ろ向きですが、わずかにシャーロックに顔を向けているウィリアムがとてもやさしく微笑んでいて、なんだか私たち観客も報われたような気がしました。そして2人で「この世界を」で終わる。

Op.5は「この世界を」で始まり「この世界を」で終わる。Op.2当時はいい歌だなとは思いつつもそんなに思い入れはなかったのですが、この結末を見て改めて聞いてみるとウィリアムの原点ってここに集約されてたんだな……と改めて思うなどしました。

 

キャスト・キャラクター別感想 ※後日追記します

初日はウィリアムとシャーロックを中心に見てしまったので、ほかのキャストにも注目したい。主演2人の行動に対してどんな反応をそれぞれしているか、とか。

 

最後に

とにかく最後の事件、非常に素晴らしかったのでもっとモリミュを続けてOp.6空き家の冒険を早くやってください、お願いしますマーベラス様。

株買えばいいですか??!?

 

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大阪公演は閉館が決まっているメルパルク。お世話になりました。

*1:アニメージュ2022年2月号より

*2:ご結婚おめでとうございます!

*3:ショタコンなので