まえがみをきろう

ただのOLのただの備忘録

運命の二人〜ミュージカル『憂国のモリアーティ 』Op.4-犯人は二人-感想

※初日を観劇した興奮と勢いで書いています。大いにネタバレを含みます。

※全て記憶なので間違ってる部分があったらすみません。

※後日、複数回見ての感想とキャスト別の感想を追記予定。

[2/10追記]しました。

 

 

目次

 

総評

前回は一言で表すなら「風」でしたが、Op.4は「運命」なんだろうと思います。

 

正直、犯人は二人の途中までは(彼の結末を知っていることを踏まえても)一幕からずっとミルヴァートン(藤田玲) オン ステージで、ウィリアム(鈴木勝吾)とシャーロック(平野良)はそのための舞台装置のような感じが強いな、と思っていました。ミルヴァートンの掌の上で、どんどん死に向かっていくウィリアムと、対照的に真人間に近づいていくシャーロック。今回はそういう描き方なんだな、と見ていて思っていたのですが……。

 

が、やはり運命の夜、全てがひっくり返ってウィリアムとシャーロックの物語になるんですよね。このOp.4のウィリアム・シャーロックの役割りのどんでん返し(とまでは言わないかもしれないけど)という作品の構図が、ミルヴァートンの読み違えという物語ともリンクしているようでとてもいいなと。

 

あとは単純に、長くて情報量の多い原作のエピソードをよく纏めたな、と思いました。これまでに比べたら説明足らずだったり飛躍しているシーンもちょこちょこありはしましたが、破綻はしてなかったはず。ここが見たい!というシーンは押さえられていて、そして作り込まれていて、全体の満足度はとても高いです。

 

そして今回感心したのが、舞台セット!バルコニーのような二階部分が上手下手にあり、可動式の橋を真ん中にセットすれば、渡れるようにもなる、というようなもの。(見た方が早いので上に貼った公式Twitter見てください)

これが、時にはミルヴァートンの安楽椅子、時にはボート、時には建物の屋根…と場面場面でさまざまな場所に変わります。まあ演劇ってそもそもそういうものというのはあるのですが、それでも、シンプルながらとても優秀な働きで、見ていて楽しかったです。

 

プロローグ

開幕はお馴染みアンサンブルのMから。貴族と市民の対立と犯罪卿の説明のような歌でしたが、モリミュは毎回アンサンブルでグッと世界観に引き込んでくれるからすごい。1年半ぶりの公演でも、新歌舞伎座という超和風な劇場でも、瞬時にそこが大英帝国になります。

 

その後、ジョン(鎌苅健太)の説明から入るのはもはや定番になっていますね。コナンドイル先生はストーリーテラー

 

そしてびっくりしてしまったんですが、ウィリアムとシャーロックの、「I will」「I hope」と対になっている歌、なに?ま〜たシャーロックがI will I will歌ってるよ、と思ったらそのすぐ後にウィリアムもI hope I hope歌ってました。なに?

しかもこちら、シャーロックはステージの1階部分で歌ってましたが、ウィリアムが登場したのは下手バルコニーから。なんか某探偵の役者さんが取材でロミジュリとか言ってたな〜ということを思い出しました。ここまで開幕数分です。

 

ウィリアムのI hopeソング(便宜上こう呼びます)は、彼にしては意外に音が低めだなと思いました。もっと高らかに高音を響かせても良い場面ではないのかな、と思ったのですが、気のせいではないはず。

これ音の高低でウィリアムの心情を表してたらどうしよう。例えば、Op.2のアクマヨー、Op.3の孤独の部屋、今回のI hope、ウィリアムにとって重要な歌が、徐々に低くなっていっている気がするんですよね。果たしてこれは意図的なのか。次回はどうなるでしょう。

 

第一楽章『ロンドンの騎士』

一幕はまるまるロンドンの騎士でした。この主役はやはりホワイトリー(川原一馬)とミルヴァートン。誠実なホワイトリーと、悪の塊のようなクソオブクソ(原作のシャーロック談)ことミルヴァートン、2人の対比が素晴らしいです。

その中に関わってくるサムやマギー、護衛の警官、ラスキンなど、アンサンブルの活躍も。

 

ここではホワイトリーを観察するモリアーティ陣営も面白いです。ただの作戦会議なはずなのに、明らかにウィリアムがもう死にたそうなんですよ。それに気付いてるアルバート(久保田秀敏)・モラン(井澤勇貴)の大人組と気付いてないルイス(山本一慶)・フレッド(長江崚行)の年下組の対比が悲しい。

モランのソロとルイス・フレッドの兄さんソング通称にいそんもありました。それぞれこれからの展開が示唆されているような内容。(モランは最後の事件と空き家の冒険、ルイス・フレッドは最後の事件まで)アルバートのパートがなかったのは、Op.3ですでに心情を歌っていたからか、二幕で机で寝入るウィリアムとの歌があったからか?そのせいですかね。

 

そういえば、原作からのちょっとした改変として、パターソンの役割がまるまるレストレード(髙木俊)になっていたのが面白かったですね。主任警部は別件でいないらしいので、代わりにレストレードが担当。でもパターソンは状況は把握していて、ウィリアムに報告はしている模様

 

ミルヴァートン陣営では、ラスキン(吉高志音)の細かな役作りが光ります。ミルヴァートンを盲信して見つめる目、逆にホワイトリーに対するどうでもいいものを見る目。彼にとっては世界は「ミルヴァートンかそれ以外か」で構成されているんですかね?

ホワイトリーが触れた手摺りをすぐさま拭いたので「そんなに潔癖なの?!」と思ったらミルヴァートンの命令で普通に室内で立ちションするし(二幕)、たぶんミルヴァートン様以外眼中にないんだろうと思います。ラスキンがそうなってしまったスピンオフ、ください。

 

そんなラスキンですが(?)必見のシーンとしては、ホワイトリーの警官殺害シーンの歌ですね…………。強く印象に残っている歌詞が、「綺麗は汚い 汚いは綺麗」です。モリミュはちょこちょこシェイクスピア要素を取り入れがちなのですが、今回はこれかー!と。原作でシェイクスピアの戯曲がモチーフになっている『ロンドンの証人』がミルヴァートンの台詞のみで済まされてしまって寂しかったところに、シェイクスピアネタが出てきたので、プチ感動でした。

 

また、今回初めての演出として、これまでピアノとバイオリンのみの演奏だったのが、とある範囲だけオルガンの伴奏になっていました。

ホワイトリーが貴族院の不正の証拠を手に入れてから彼が犯す殺人までの間なのですが、ミルヴァートン(禁断の果実を食べさせた蛇のイメージ)に操られているという表現なのか、この部分がとても異質ですごく印象に残っています

オルガンの音色ってシーンによって感じる表情が全く違うのがすごいな、と思います。ピアノからオルガンに切り替わった瞬間(アルバートから証拠をもらった時)は、まるで甚大な力を手に入れてもはや未来は明るいかのような音色。しかし、それがどんどん不穏になっていきます。個人的にはオルガンの音色って華やかさだったり、透き通るような清廉さがありながら、どこか物寂しさみたいなものもあるなと思っていて、それがホワイトリーに当てはまっているようでよかったです。

[2/10追記]オルガンに変わって直後のアルバートのソロは、まるで讃美歌だなと思いました。落ち着いたメロディもそうですし、曲の終わりが「アーメン」の音なので、おそらくイメージして作られているかと思います。

背景と照明のステンドグラスもあいまって、まるで本当に教会にいるかのような、厳かな雰囲気です。

 

そして一幕は、犯罪卿によってホワイトリーが殺され、義賊と思われていた犯罪卿が貴族・市民どちらからも恨まれる展開によって幕を閉じます。一幕ラストの曲が、とことんウィリアムを追い込んでいくような歌で、彼は真ん中でただ耐えるしかなくて、辛い。双眼鏡を持ってたはずなのに、あまりに辛そうで、顔をアップで見たくなくて、全く使えなかったくらい。最後の事件を予感させます。

[2/10追記]一幕の締め、ウィリアムがバサッと犯罪卿のマントを翻すのですが、一瞬現れるシルエットがまさに「犯罪卿」で、気付いた瞬間鳥肌が立ちました。センターに座った際(配信でも)注目してみてほしいポイントです。犯罪卿に対してこう形容していいのか分からないですが、とても「美しく神々しい」シルエットです。

 

第二楽章『四つの署名』

二幕はシャーロックの犯罪卿に関する推理とジョンの結婚報告からスタート。そして四つの署名への流れ。四つの署名パートは思ったよりもしっかりやるなという印象でした。

 

原作でもそうなのですが、「嫉妬」という感情を初めて実感するシャーロックがかわいい。彼は色々な感情を覚えて、どんどん真人間になっていきますね。

 

シャーロックがメアリー(山内優花)を怪しんで推理している時、バイオリンの林くんが出てきて中合わせになるような演出が好きでした。

ここの演奏、Op.3のバクステで映っていた、林くんがやっていた得意技(?)(今円盤が手元にないので確認できない…)ですよね…?たぶんそうなはず。

[2/10追記]得意技、ピチカートというんですね、勉強になりました。

 

また、実は私は四つの署名で地味に好きなのが犬のトビーなのですが、出てこなくて残念でしたね……。それに伴ってかウィギンズもいなかったし……。

ただ、その代わりなのかグレッグソンはかなり癖つよできてくれたのでよかったです。初演から原作が逆輸入した「この流れで警部補って呼ぶな!」を今Op.4で見れている、ちょっとした感動。

 

一方その頃モリアーティ陣営では、ミルヴァートン暗殺について会議がされていたわけですが、ウィリアムの言う「大丈夫」とか「プラン通りだよ」とかは、Op.3はギリギリ本当に大丈夫だったとしても、今回Op.4に関しては全く大丈夫じゃない声色してる!!そしてそれを隠そうともしないじゃんか!!!!おい、せめて隠せ!!!!!

アルバート・モランの大人組はそんな姿を見て各々の形で受け入れているけれど、やはりこの時点ではルイス・フレッドの年下組は気づかないふりをしているのか、単に盲信して本当に気づいていないのか、ウィリアムの本心は見えていないのが悲しいところ。

 

話は戻って221B組ですが、ハドソンさん(七木奏音)とメアリー+女性アンサンブルのお茶会シーンとレストレード警部の歌謡ショータイムが癒しでした。

今回は(というかいつもかも)暗いシーンばかりで特に重苦しいのですが、この2人が数少ない明るいシーンを担ってくれて非常に助かります

そういえば、ボートに乗る前にジョンが持ってきてくれたコーヒー、シャーロックは「砂糖ありミルクなし」と言ってたと思うんですが(違ったっけ?でもコーヒーについての言及は絶対にあった)、原作に情報あったっけ?!となりました(NYを思い浮かべながら)

[2/10追記]コーヒーの台詞、原作にありました。

 

四つの署名でいちばんの目玉、ボートチェイスのシーン、どう演出するのか気になっていましたが、上述したセットが活用されていて緊迫感もあってよかったです。

吹き矢の男は、原作ではなくアニメと同じく肩を撃たれたことになっていて、アニメの要素が取り入れられているのが少し新鮮でした。(そういえばロンドンの騎士の切られた指と指輪もそう!)脚本の執筆時期的にOp.4ならではだなと思います。

 

第三楽章『犯人は二人』

ミルヴァートンの221B訪問のシーン、結末がわかっててもこのクソ野郎〜〜!!!となりますね。

というかこのシーンはラスキン結構やりたい放題してて笑いました。原作通り立ちションするんだ…と思っていたところ、要を済ませた後ジョンのジャケットで手を拭くという。コイツまじか?!1幕ではホワイトリーが触った手摺りをすぐ拭く様な潔癖っぷりだったのに?!なにコイツ?!

[2/10追記]なんとラスキンの立ちションシーン、本当に水が出ています。初めて気が付いたとき目を疑いました。下手か上手どちらでも端の席ほど見やすいのではと思います。注目。

 

その後の水道屋のシーンをばっさりカットしたのは英断だなと思いました。シャーロックとジョンの捜査活動は四つの署名と似たような画になってしまうので、すぐにミルヴァートン別邸侵入準備に入っているのがスムーズな流れでよかったと思います。

 

そして侵入前夜といえば、Op.4の中でも目玉シーンのひとつ、シャーロックとジョンの屋根での語らいの場面です。ここへのシーン転換の時、初演の「僕だけは」のメロディーが入っていたのが、とても良かったです。シャーロックが友情を知れたのはジョンのおかげだ。

ここはもうとにかく期待通りの良いシーンで、初演から4作やってきた2人の、一つの集大成だと思います。

 

さて、シャーロックとジョンの友情シーンからの、ウィリアムとアルバートコントラストがしんどい

事前の稽古場レポで赤い布が使われているシーンがあったのですが、それはここだったんですね。地獄の業火のイメージなんだろうな。

この辺りはすごく空き家の冒険のアルバートの独白が入っていて、先を思わせて辛くなります。

 

そしてシーンは移り、びっくりしたのが、ミルヴァートン別邸襲撃の時、モラン・ルイス・フレッドだけでなく、まさかアルバートも出陣していたとは!!!アルバートの殺陣はミュージカルでは初めてでは?!ここ、実はいちばんテンション上がったポイントです。

 

ウィリアム・シャーロック・ミルヴァートンの三竦みのシーンは、観ているこちらもど緊張。ずっと手に汗握っていました。

シャーロックが合流し、犯罪卿の正体がウィリアムであるとバラされる時。それまで真っ暗だった下手のウィリアムがピンスポで抜かれた瞬間のBGMがなんとメインテーマ!!

これオタク全員好きな演出ですよね?!最終回の山場、一番盛り上がるシーンで主題歌が流れるタイプのやつ!!!(主語デカ)(最終回ではない)

 

そして、シャーロックの「リアム、そうだよな?」の直前、それまでずっと波の音がしていたのにピタッと止み、いよいよだとさらに手をぎゅっと握ってしまいました。

[2/10追記]シャーロックがアカペラで「ああ犯罪卿お前が俺の思うお前だったなら」と歌うところが最高に大好きです。プロローグで歌った I will ソングの歌詞をアカペラで持ってくる演出。最高に滾りました。

 

ここの一連のシーン、基本は三角形の配置なのですが、時折シャーロックが移動してウィリアム・シャーロック対ミルの2対1の形になっていたりもして、原作の緊迫感もちろんありつつ、ミュージカルならではの表現になっていてよかったなと思いました。

[2/10追記]三竦みのシーン、各々が興味深いリアクションや表情しているので、座席の位置によって定点で見るのが楽しいです。詳しくはキャスト別感想に貼ったツイートにあるのでぜひ読んでください…。めちゃくちゃ良いです。

 

最後は、冒頭でも触れたのですが、ミルヴァートンの退場がこれまでの印象よりも意外と小物感があったので、やっぱりそれでこそミルヴァートンだと。そしてやっぱり主役はウィリアムとシャーロックなんだと、再認識しました。

主演2人は舞台装置なんかではない。ミュージカル憂国のモリアーティはウィリアムとシャーロックの物語です。

運命です

 

[2/10追記]シャーロックがミルヴァ―トンを撃った後、ウィリアムは原作ではそのままシャーロックに銃口を向け続けるんですよね。それがモリミュではすぐに腕を下ろし、さらに後ろで手を組むまでしている。ここの意図をずっと考えているのですが、自分ではうまく結論が出せない…。なにか心当たりがあれば、Twitterで教えていただけると嬉しいです。

 

そして、ラストの曲。ウィリアムの「シャーロックにつかまえてほしい」歌、そしてシャーロックの「俺がリアムをつかまえてやる」歌。公演にもよりますが、ウィリアムはシャーロックと歌いながら涙をこぼし、シャーロックはリアムと歌いながら咆哮のように叫びます。

劇中、多少微笑むことあってもちゃんと笑うことなんてなかったウィリアムが、シャーロックが「リアム、俺がお前をとらえてやる」と歌った瞬間、俯いていた顔をあげて歯を見せて笑うんですよ。しかし笑うといっても、悲痛な様子は残したまま、シャーロックの歌を最後まで聞かずに捌けていってしまうという……。

このすれ違いが辛いですが、ここですれ違うほど最後の事件のラストに効いてくると思うので、とても楽しみでもあります。

 

初日の感想はとりあえずこれまで。まだまだ書きます。

[2/10追記]諸々追記しました。

↓キャスト・キャラクター別感想も追加しています。

 

キャスト・キャラクター別感想 ※2/10追記

 

・ウィリアム(鈴木勝吾さん)

いつものごとく「天を切り裂くような高音」「犯罪卿としてのカリスマ性の演技」が素晴らしい。その上で今回は、「貴族や市民の前での堂々たる犯罪卿の振る舞い」、「その一方で犯罪卿でいなければいけない葛藤」、「死への誘惑」この辺りの描写がより繊細に表れているように感じました。


彼が舞台上にいるときは絶対に目で追ってしまう。勝吾くんのお芝居に惹かれてやまない、人を惹きつける魅力と言う点ではウィリアムに似ているようでもありますね。

しかし、今回は(というかOp.3から徐々にですが)「人を惹きつける」の方向性が「圧倒的カリスマ性」というよりも「庇護欲を掻き立てるような危うさ」にシフトしていっているような気がします。

前者のカリスマ性がないというわけではないんです。一幕ラスト「ここだ私は犯罪卿、怒りの刃を向けるがいい」と歌うシーンは、圧倒的な迫力を感じて痺れますし、モリアーティ陣営でのシーンも今まで通り彼は中心にいてイニシアチブを取っています。しかし今回は、その裏にある死へと繋がる仄暗さが隠せていないんですよ……。この危うさに惹きつけられて、約3時間あっという間に時間が過ぎます。


いちばん好きなシーンは、二幕の自室の机で寝入ってしまう場面です。(余談ですが、ここのアンサンブルのダンス、赤い布が炎イメージでかっこいい)

まず登場した瞬間から死しか頭にないような心ここにあらずな表情をしていて、心臓がぎゅっとなります。虚空を見つめるウィリアムと、その周りに貴族と市民。両者それぞれがウィリアムを責め立てるように周りを取り囲み歌いますが、このままウィリアムが地獄まで連れていかれてしまうんじゃないかと思って怖くなります。そして怖いと同時に、上記のように「なんとかしなければ」という庇護欲も掻き立てられます。そんな繊細さというか、危うさというか、なんとも言えない「この時期の思い悩むウィリアム」の表現がどうして勝吾くんはこんなに上手いんだろう。

 

さらに物語が深まっていくOp.5で(もはやある前提)、どんな顔で最後の事件を進めるんだろう、そしてどんな声で「シャーリー」と呼ぶんだろう。勝吾くんの「最後の事件」が楽しみでしかたありません。

 

 

・シャーロック(平野良さん)

こちらも安定の滑舌とお芝居。今回のシャーロックは、だんだんと真人間になっていく過程が楽しめます。謎に飢えて銃をぶっ放していた頃からは考えられないような、台詞、歌、表情など、Op.3までとは違った仕上がりになっています。


死へと向かっているウィリアムとは対照的に、シャーロックはとにかく「」として描かれているなと思いました。最初は訝しんでいたメアリーに対して最終的にはちゃんと認めて手を貸すところ、ミルヴァートンに踏まれたサンドイッチをなんの躊躇いもなく食べるところ、そして、屋上でのジョンとの友情の誓い……。ジョンも言っていましたが「ロンドンに住む人が困ったとき、シャーロックを頼ってやってくる」「シャーロックはロンドンに必要な人間」。一癖も二癖もあるキャラクターだけど、まさに世界的主人公に相応しいような光属性。それが良くん自身の特性ともマッチしているように感じます。


いちばん好きなシーンは、三竦みの場面でプロローグで歌った I will の「ああ 犯罪卿お前が俺の思うお前だったなら」をアカペラで歌うところです。逆にここ、好きじゃない人います…?山場のシーンでアカペラになるの、全ミュージカルファンが好きだと思う(主語デカ)。しかもこれがシャーロックの、良くん特有のあのクセのある歌い方と声なのが、さらに、良い。


上述した通り、三竦みのシーンは、それぞれの表情に注目して見ると楽しいです。ミルヴァートンは中心なので分かりやすいですが、下手に座ったらシャーロックを、上手に座ったらウィリアムをよく見ていると、お互いのセリフや歌に反応して、見つめたり、笑ったり、かなり綿密にお芝居されているのが分かります。

詳しくはこのツイートとツリーを見てください。

 


アルバート(久保田秀敏さん)

今回、アルバートが実はいちばん難しい役どころなんじゃないかと思うんです。

Op.3から徐々に彼の内心が見える歌が増えていますが、今回はさらに深層に届くくらいまで深掘りされていて、原作の表現とミュージカルの表現、その折り合いをはかるのが難しかったのではないか、と勝手ながら思っています。


あとは単純に、ソロが増えて嬉しい!対照的な2つの曲が印象的でした。一幕の讃美歌では、背景や照明のステンドグラスの効果もあいまって非常に厳かなシーン。一転して、二幕の寝入るウィリアムとの歌では、心の底から絶叫というか、懺悔というか、内面の露出が見ていて辛い程でした。


Op.3の「共に重き荷を負いて」も今回のソロ2曲も共通して十字架や教会のモチーフが使われていて、アルバートに「神聖さ」のイメージが印象的に刻まれるようにしているんだと思いました。でも彼はたぶん、神なんて信じていないけれど。

ウィリアムに救世主を重ねているという原作の表現から、このようなイメージ付けになったのかな、と思っています。


最後の事件では、これ以上にどんな胸の内を見せてくれるのか、泣き叫ぶような懺悔の歌を聞かせてくれるのか、非常に楽しみです。

 


・ルイス(山本一慶さん)

Op.3からの声の変化に驚きました。詳しくは下記ツイートを。


明らかに“通る声”になってるんですよね。この段階で兄さんに似てくるというのが、今後の原作を思うと辛いですね。


いちばん好きなシーンは、やはり今回から復活した兄さんソングでしょうか。フレッドとのハモリも綺麗でいい。長江くんと声の相性いいですね。

ちなみに、今回の兄さんソングは最初の「ウィリアム兄さん…」の台詞も入れて、計9回言ってました。相変わらず強火でいいですね。


次回はついに“M”になるルイスが見られると思います。運命の夜が明けた後、どんな声でどんな歌を歌うのか、今から想像してワクワクしています。Mとしての決意を決めたルイスのソロは絶対にかっこいい。


ところで、アンパンマンチョコのキャラ当てゲーム難しすぎませんか??!?!

 


・モラン(井澤勇貴さん)

一幕のソロが辛すぎる……。井澤さん、モランっていうキャラにしてはすごく甘い声だなと思っていて(それが合わないというわけではなく)、モリミュにおいてのモランとしてはウィリアムへの思いが表れているようでいいなと初演の頃から思っていました。

今回のソロは、その声質がとても効果的に観客に心を抉りに来ています。モランの強い決意が、甘めの歌声にのって心に沁みてくるというか……。

井澤さん、ツイッターやインスタでもいつも賑やか(?)で大変愉快だなと思うのですが、SNSで見える俳優たちの関係性も重ねて、モランの今回のソロはとても心にきます。

空き家の冒険、見たいな………。

 


・フレッド(長江崚行さん)

プリンシパルで初めてのキャスト変更があったフレッド。きっと誰よりも緊張と不安があったかと思いますが、そんなことを感じさせない、可愛らしく、それでいて芯の強いフレッドでした。昨年末のJMFのステージで初お披露目でしたが、心を抱いての「この道を行くと〜」の優しげで素朴な第一声で、「長江くんのフレッド、間違いない!!」と確信しました。

 

(比較するのもナンセンスかなとは思うのですが)赤澤くんのフレッドと比べると、長江くんの方が感情を素直に出すような印象です。(単純に脚本の影響かもしれないけど)モリアーティ陣営のキャラクターバランスを考えると、確かにフレッドがこのくらい感情を出すのも、なるほどアリかもなあ、と思いました。どちらがいいとかではなく。


Op.5では、ウィリアムとの「僕はもう…」のシーンや、ルイスとの内通のシーンなど、より気持ちが前に出るような場面があるので楽しみです。このツイートがもう、最後の事件のアレじゃないですか……。

表情がもう完成されている。楽しみ。

 

 

・ジョン(鎌苅健太さん)

結婚したい男No.1

婚約者メアリーに対する態度が本当に優しくて最高なんですよ。いつもメアリー第一に考えている。シャーロックのせいで221Bの顔合わせの空気が悪くても積極的に盛り上げてくれるし、メアリーが危険な秘密の報告をしていなくても「大丈夫、解決してみせるよ!」と頼もしく言ってくれるし、メアリーが不安になったらそっと抱き寄せてくれる……。

シャーロックやメアリーの推理に素直に反応しているのは可愛らしいし、逆にトンガに狙われた時すぐに拳銃を撃てるのは頼もしくかっこいい。グレッグソンの日替わりも上手く回収してくれるし、本当に、欠点が、ない


物語の役割的にはストーリーテラーに回ることが多いですが、安心してナレーションを聞けるのもさすがだなと思います。他の人がよく噛んでしまう回でも安定感があってありがたいです。


Op.5では、基本穏やかで激昂しないジョンがきっと冒頭の場面でシャーロックに対して怒りを露わにするシーンがあると思うので楽しみです。

 

 

・ハドソンさん(七木奏音さん)

数少ないモリミュの癒し①

Op.2のシンデレラ戦争が大好きで、今回もそんな曲があったらいいな〜と思っていたのですが、あった!!原作ではたった1コマの部分があんなに可愛らしい歌になるなんて!ここの女子会ソングは、アンサンブルチームとの掛け合いも面白くて、Op.4では貴重なホッとするシーンになっていました。


また、2/7、お誕生日おめでとうございました!SNSでのコメントだったり、カーテンコールでの挨拶だったり、奏音ちゃんの穏やかで可愛らしい性格が垣間見えて、その度に大好きになります

 

 

・レストレード(髙木俊さん)

数少ないモリミュの癒し②

Op.3に続き、今回もソロがあって嬉しかった!前回は割とミュージカル調(?)でしたが、今回は歌謡曲調(?)で、こちらもレストレードっぽさが出ていて良い曲でした。苦労してるんですね…。

しゅんりーさんといえば日替わりの安定感。今回はホワイトリーの護衛の警官選びやボート出航前の飲み物(食べ物)など。その他にもボート上での動きやシャーロックにとのやり取りなど、細かなところも公演ごとに違っていて、流石の一言です。

Op.5で物語がどんどん暗くなっていっても、レストレードはずっとこのままでいてほしいです。

 

 

・ホワイトリー(川原一馬さん)

出番は主に一幕のみですが、それでも圧倒的な存在感で惹きつけられました。

歌声が大好きなんです。ホワイトリーらしい「誠実さ」や、なんとしても平等への道を進めるという「力強さ」が声にこもっているように感じていて、特に力強いビブラートがとても好きです。一幕だけなんてもったいない、ずっと聴いていたい。


警官殺しのシーンは、もう本当に辛くて見ていられないくらいなんですが、「それでも目を逸らしちゃいけない」と思ってしまうくらい、お芝居に惹きつけられます。毎回しんどいですこのシーン。でも、この感じているしんどさが、この場面では必要不可欠なわけで……。こう感じさせてくれるというところが、とてもいい俳優さんだなと思いました。

 


・メアリー(山内優花さん)

出番は決して多くはないですが、印象的なキャラクターだと思います。原作では謎が多い分親しみにくいキャラになってしまっている印象ですが、ミュージカルでは歌の効果もあり、そこが払拭されている印象でした。

四つの署名の長い推理パートも、長台詞でもとても聞きやすく、スラスラ頭に入ってきます。佇まいや声、仕草も全て含めて、「シャーロックが認めるほどの聡明な女性」であるなと感じました。


少しはずれますが、個人的には、シャーロックの推理シーンでしている挑発的な表情が好きです。かわいい

 

・ミルヴァートン(藤田玲さん)

最初からずっと書いていますが、もう、ミルヴァートン オン ステージ!!!!!!(ただしラスト数分を除く)Op.3から魔王の片鱗はあったかと思うのですが、今回ではさらに迫力を増した魔王へと変貌しました。

圧倒的な力を持つ魔王でありつつ、お芝居の端々のいやらしさ(艶っぽさ)もありつつ、ラストは策に溺れて焦る小物感も少しある。藤田玲さんのあらゆる魅力が詰まった役だなと改めて思います。Op.2の際、平野さんがプロデューサー陣と「ミルヴァ―トンは玲ちゃんしかおらん!!」と話されていたそうですが、本当に、主演達とのバランスも考えて彼がどハマりしていて、よくぞオファーしてくださった!そして出てくださった!と改めてお礼を言いたいです。


いちばん心に来るシーンは、やはり一幕のホワイトリー一家殺害〜ホワイトリーによる警官殺害の場面でしょうか。ただ座っているだけなのに「全て私の掌の上」と言わんばかりのあの圧!オーラ!流石はミルヴァートン様です。

反対に、二幕の三竦みシーンでの「待て待て待て」や「さっきから何の話をしている?答えろ!」の小物感も、これはこれでまさに、犯人は二人のミルヴァートン。その直前まで「これが完全武装完全勝利」と朗々と歌っているところとのギャップも好きです。


モリミュではおそらく、今回がラストのミルヴァートン。寂しいですが、最高の最期だったので非常に満足です。

でも後々コンサートなどやる際には、是非とも復活していただきたいです。

 


・アンサンブル

毎回のことですが、今回もやはりMVPはアンサンブルの方々!世界観の構築、歌のダイナミクスの補助、メインキャラクターではなくとも特徴的なキャラの演じ分けなどなど…。皆さんがいなければ絶対に成り立たない舞台の中、毎度毎度安心感がすごいです。その中でも特に印象に残っている方々をピックアップさせていただきました。


-吉高志音さん

ラスキン!!

開幕前は誰がやるのか(そもそも登場するのか)とても気になっていて、ほかの舞台の評判から、ラスキンが登場するのであれば絶対に彼がいいと思っていました。

原作からの想像通りというか、むしろ想像の上をいくラスキンで、細かい動作まで楽しませてもらっています。ミルヴァートン様のこと好きすぎじゃないですか?!

ホワイトリーが触った手摺りを拭くのがテーブルクロス引き並みのスピードで笑う。


-永咲友梨さん

圧倒的に女性アンサンブルが少ない中、声が真っ直ぐに聞こえて来る。たぶん永咲さんですよね…?冒頭の貴族も素敵ですし、ホワイトリーの出待ちも、マギーも、親しみやすいようなキャラクターでいいなと思います。

個人的に好きなのが、ハドソンさんの女子会ソング。まず登場が体操してておもろいのと、メアリーが「財宝はいらない」と言った時の驚きっぷりがツボです。どんなポーズだよっていう。


-白崎誠也さん

いつも辛い役どころですね…。今回のスターリッジはいつにも増して難しく辛い役だったと思います。ホワイトリーとのヒリヒリした掛け合いが、見ているこちらも緊張します。

なんかこれからもずっとしんどい役やってほしいですね。ずっと苦しんでいてほしい。


-蓮井佑麻さん

Op.3の可愛い可愛いビルから、今回はホワイトリーの秘書マーカス、そしてグレッグソン警部補!!振り幅がすごい。一応これもフレッドと同じく今回からのキャス変(?)な訳ですが、Op.2までのあの感じを引き継ぎつつ、蓮井さん色もあって、いつも楽しませていただいております。毎日お疲れ様です。

最後の事件でもグレッグソンの出番があるはずなので、次回も楽しみにしています!

 


個別のキャラクター、キャストについては以上です。かなり長くなり失礼いたしました。

 

 

 

最後に

モリミュはどんどんクライマックスに向かっていっています。

Op.5で最後の事件をやるのはほぼ確定だと思うので、千々に乱れたモリアーティ陣営がそれぞれどう動くか、ウィリアムの手紙はどんな歌になるのか、ウィリアムとシャーロックの橋落ちはどんな演出になるのか、今からすでに想像を膨らませてワクワクしています。


そして、空き家の冒険や恐怖の谷、第一部完結までミュージカルで見られますように……。

原作第二部が始まったらそのミュージカル化も……コンサートも……と願望は全く尽きません。


これからも憂国のモリアーティ、そしてモリミュが盛り上がりますように!

このブログで観劇した方と思い出を共有したり、まだ作品を知らない方には1人でも多く魅力が伝わればいいなと思います。

 

HP

www.marv.jp

 

配信

www.paravi.jp

原作

shonenjumpplus.com

 

 

P.S.

f:id:tadaoltada:20230128014752j:image

例のアンパンマンチョコ。スティックのキャラ、難しすぎて当たる気がしません。